ドネペジル(商品名:アリセプト)は、アルツハイマー型認知症や一部のレビー小体型認知症で用いられるコリンエステラーゼ阻害薬です。
もちろん日本国内でも承認されている医薬品なので、ドネペジルは安心して試せます。しかし、中には「薬をやめたら症状は戻るのか」「急にやめても大丈夫か」「副作用や離脱症状はあるのか」といった疑問や不安を抱える方も少なくありません。
この記事では様々な臨床研究・症例報告、厚生労働省から発出されている留意事項や注意点をもとにして「中止後に想定される身体への影響」「ドネペジルの副作用」「安全な減薬法」を分かりやすくまとめました。
ドネペジルは適切な形で服用すれば認知症の症状改善が期待できる医薬品ですので、その取り扱い方をよく理解しておきましょう。
ドネペジルとは|効果・用量・一般的な投与スケジュール
まずはドネペジルの基本情報(効果や用量など)から紹介していきます。
薬の効果や作用機序を理解し、正しく服用することがドネペジルを用いた治療に役立ちます。
ドネペジルの効果と作用機序
ドネペジルはアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬のひとつです。厚生労働省による認可を受け、日本では認知症の治療によく用いられています。
アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬は、アルツハイマー病(AD)患者の認知機能や全般機能を改善することから、今日広く用いられている
引用:日本医学会|ドネペジル治療効果の予測
ドネペジルにより改善が期待できる主な症状は以下の通りです。
- 物忘れが軽くなる
- 会話の理解や反応がよくなる
- 注意力が上がる
- 日常生活(食事・着替えなど)がスムーズになることがある
- 認知機能の低下スピードを遅らせる
ドネペジルが用いられる疾患は、上記のような症状が出やすい「アルツハイマー型認知症(軽度〜重度)」「レビー小体型認知症(LBD)」「血管性認知症(一部)」です。
認知症を患うと、脳の中でアセチルコリンという神経伝達物質が不足します。このアセチルコリンは「記憶」「注意」「学習」 に大きく関わる物質です。
疾患の影響でアセチルコリンを壊す酵素(アセチルコリンエステラーゼ)が増えるのを抑制し、脳内のアセチルコリンを減らさないために活用されるのがドネペジルとなります。
脳内のアセチルコリンは通常「アセチルコリンエステラーゼ」という酵素によって分解される⇒ドネペジルはこの酵素を阻害する(=働きを弱める)
このような作用があるドネペジルは、認知症の進行を遅らせる薬として多くの方々が利用しています。
ドネペジルの用量・投与スケジュール
ドネペジルの用量は通常3mg~5mg(1日1回)です。治療が進むにつれて10mgが処方されることもあります。
例えば軽度のアルツハイマー型認知症の場合だと、以下のようなスケジュールでドネペジルを服用することが一般的です。
- 最初の4週間:3mg 1日1回
- 4週間以降:5mg 1日1回に増量
- 必要に応じて:10mg 1日1回に増量(医師が副作用や効果を見て判断)
中度~高度の認知症の場合は最初から5mgを服用するケースもありますが、ドネペジルの用量は基本的に医師の指示により決まります。
参考:厚生労働省HP|ドネペジル塩酸塩、ガランタミン臭化水素酸塩、メマンチン塩酸塩、リバスチグミン
ドネペジルを急にやめたらどうなる?服用・中止の影響を解説
ドネペジル服用者が急にやめたらどうなるのか?という疑問を解消するために、ドネペジルが身体に与える影響や副作用を紹介していきます。
ドネペジルを服用している方は、必ず医師の指示のもと減薬や中止をしましょう。
ドネペジル中止後に想定される身体への影響
ドネペジルを中止した後に起こり得る身体への影響は以下の通りです。
- 認知機能や日常生活動作の変化(認知症状の悪化)
- 急な中止による身体的な負担(吐き気や下痢など)
ドネペジルを急にやめると、それまでに改善されていた認知症状が悪化する恐れがあります。
its sudden withdrawal is usually detrimental, producing acute cognitive and behavioural decline.(意訳:ドネペジルの急激な中止は通常有害であり、急性の認知機能および行動機能の低下を引き起こす。)
引用:What happens when donepezil is suddenly withdrawn? An open label trial in dementia with Lewy bodies and Parkinson’s disease with dementia(ドネペジルを突然中止するとどうなるか?レビー小体型認知症とパーキンソン病を合併した認知症患者を対象としたオープンラベル試験)
ご覧のように、これまでの研究でもドネペジルを急にやめることに関してはリスクがあると指摘されています。そのため、服用をやめたい場合は医師と相談して、段階的に減薬することが望ましいと言えるでしょう。
ドネペジル服用中の副作用
ドネペジルを服用している間は、以下のような副作用が起きる可能性があります。
| よく報告される副作用 | ・悪心(吐き気) ・下痢 ・食欲不振 ・嘔吐 ・不眠、悪夢 ・筋けいれん(こむら返りのような症状) |
|---|---|
| ときどき見られる副作用 | ・頭痛 ・めまい、ふらつき ・倦怠感 ・抑うつ、興奮、不安 ・無感情 |
| 稀な副作用 | ・不整脈 ・けいれん発作 ・強い興奮、幻覚 ・胃潰瘍、腸閉塞(きわめて稀) ・肝炎 |
服用を続けることで身体が慣れて副作用が収まるケースもありますが、改善が見られない場合は医師と相談して用量を調整しましょう。
ドネペジルの安全な減薬方法
ドネペジルの服用を中止するときは、安全な形で減薬をおこないましょう。
ベネフィットがリスクを上回ると判断できない場合は、投与を中止すること。投与開始12週間後までの有効性評価の結果に基づき投与継続を判断した場合であっても、定期的に有効性評価を行い、投与継続の可否を判断すること。
引用:厚生労働省HP|ドネペジル塩酸塩製剤の保険適用に係る留意事項について
例えばドネペジル5mgを服用している場合、まずは3mgに減量し一定期間(数週間など)様子を見ながら症状の変化や副作用の有無を確認します。
減量のペースは個人個人によって変わりますが、医師の診断の上で用量・頻度を抑えていくことが重要です。(自己判断での減薬は危険)
なお、ドネペジルの用量を減らすときは以下のような点に注意しましょう。
- 物忘れ・記憶障害の進行(特に直近の出来事に関する記憶の低下)
- 見当識障害の悪化(日付や季節、場所が分からなくなる、家の中でトイレの場所が分からないなど)
- コミュニケーション能力の低下(会話が困難になるなど)
こうした症状が見られる場合は減薬のペースを考え直す必要があるので、周りの人がサポートしながら経過を観察しましょう。
ドネペジルの服用を中止する理由は?
ドネペジルを服用している方が中止する主な理由を紹介していきます。
- 副作用が強く生活に支障が出る
- 薬の効果が実感できない
- 認知症が進行し薬を服用するメリットがなくなる
過去の研究では、新規でドネペジル治療を開始した方たちの約1~2割は「有害事象(強い副作用など)」によって服用を中止しているといったデータがあります。
具体的には強い吐き気・嘔吐・下痢などが挙げられ、薬を飲み続けてもこうした症状が収まらない場合には服用を中止するケースが多いようです。
また、副作用がある中で「効果が実感できない(認知症が改善されない)」ことを理由に服用をやめる方もいます。
ドネペジルをやめたらどうなるのか?に関してよくある質問
ここからはドネペジルをやめたらどうなるのか?に関してよくある質問に回答していきます。
周りでサポートしている方、ドネペジルを服用している方はこちらも参考にしてみてください。
怒りやすさ(攻撃性)や情緒の変化は起きる?
ドネペジルの副作用には「易怒性=怒りやすさ」も含まれているため、性格が攻撃的になる可能性があります。また、情緒の変化が起きることもあるとされています。(副作用は身体が薬に慣れることでおさまるケースもある)
どんな離脱症状(リバウンド)がある?
ドネペジルの離脱症状(リバウンド)としては以下のようなものが挙げられます。
- 認知機能・行動の急激な悪化
- 不安・混乱・不眠などの離脱症状
断薬後3〜7日で症状出現の報告もあるので、段階的にドネペジルの量を減らすよう医師と相談しましょう。
参考:ResearchGate「Donepezil Discontinuation Syndrome
服用をやめると看護ホーム入所リスクは増加する?
過去の研究によるとドネペジルの服用を中止した場合、1年以内に看護ホームへ入所するリスクが約2倍になるとの報告があります。
参考:NIHR「Stopping Donepezil may be linked to nursing home placement」
ドネペジルの服用と中止は医師と相談の上で決めること
「ドネペジルを急にやめたらどうなる?」という疑問を解消するために、ドネペジルの効果・副作用・離脱症状などを詳しく説明してきました。
<結論>
◆ドネペジルを急にやめると認知症状の悪化リスクがある
◆身体的負担(吐き気などの離脱症状)が増えるケースもある
◆ドネペジルをやめるときは医師と相談して段階的に減薬することが大事
ドネペジルは日本国内でも承認されている認知症治療薬であり、適切な用量や服用スケジュールを守ることが求められます。
仮にドネペジルの副作用がつらく服用をやめたい場合は、医師と相談し徐々に薬の量を減らすようにしましょう。


