トリンテリックス(成分名:ボルチオキセチン臭化⽔素酸塩)は、うつ病の治療に用いられる薬のひとつです。
従来の抗うつ薬とは異なるメカニズムでうつ病の治療に効果を発揮します。
しかし、トリンテリックスは用法用量を守らなければいけない『ハイリスク薬』の一種でもあるため、服用する際には副作用・注意点をよく理解しておかなければなりません。
この記事ではトリンテリックスの特徴や効果の強さ、確認しておくべきリスク・副作用について詳しくまとめました。
トリンテリックスの服用を検討している方は、こちらの内容をぜひご覧になっておいてください。
トリンテリックスとは?ハイリスク薬の定義について
トリンテリックス(一般名:ボルチオキセチン臭化水素酸塩錠)は武田薬品工業から販売されている抗うつ薬の一種です。
日本国内では「うつ病・うつ状態」への治療薬として厚生労働省から正式な認可を受けています。
ただし、トリンテリックスは医師(医療従事者)による管理のもと、安全に配慮した形で服用すべき『ハイリスク薬』のひとつにも指定されているため、使い方には注意が必要です。
ハイリスク薬と聞くと「危険性が高い薬なのでは?」と心配になってしまいますが、用法や用量を守ればうつ病・うつ状態の改善に有効的な力を発揮してくれます。
トリンテリックスの特徴・効果的な症状・作用までの時間
まずはトリンテリックスを服用する上で知っておきたい薬の基本情報・効果について解説していきます。
- トリンテリックスの特徴や効果の強さ
- トリンテリックスが効果的な症状
- トリンテリックスが作用するまでの時間
それぞれの内容を詳しく見ていきましょう。
トリンテリックスの特徴や効果の強さ
トリンテリックスはうつ病の治療に用いられる薬剤で、2013年に米国FDAにより承認された比較的新しい抗うつ薬です。
トリンテリックスの主成分であるボルチオキセチンは、セロトニンに作用することで鬱状態の改善を促します。従来の抗うつ薬で症状の改善が見られなかった患者に対する有効性も期待されていて、実際に日本国内でもトリンテリックスを試すうつ病患者は増えてきました。
トリンテリックスにはSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)と似た効果がありつつ、さらにセロトニン受容体に直接作用して症状の改善を図ります。
従来のSSRIやSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)では効果を感じにくかった方でも、改善に向けての期待ができるということです。
なお、高い効果が期待できる(効果が強い)からこそ用量に関しては厳格な基準が設けられています。
・通常、成人にはボルチオキセチンとして10mgを1日1回経口投与する
・なお、患者の状態により1日20mgを超えない範囲で適宜増減するが、増量は1週間以上の間隔をあけて行うこと
トリンテリックスが効果的な症状
トリンテリックスの効果として国内で認められているのは「うつ病・うつ状態」の改善のみです。
トリンテリックスを服用することでうつ病患者における認知機能の低下が抑制される(=記憶力や思考力の改善)といった報告もありますが、これはあくまで副次的な作用であり本来の効果とは異なります。
特に日常生活において気力が低下し、やる気を出すことが難しいと感じる方に有効的です。
トリンテリックスが作用するまでの時間
トリンテリックスを服用してから薬の作用を感じるまでの期間は約2~4週間とされています。
なお、一度服用してから血中濃度がピークに達するまでの時間は「約12時間」で、半減期までの時間は「約67時間」となっています。
体内に残存する時間が比較的長い薬でもあるため、利用する際には用量を守らなければなりません。(過剰摂取になりやすい)
多くの場合、6〜8週間程度で明確な改善が見られることがあります。したがって、早期に効果を期待するのではなく、長期的な視点で治療に取り組むことが推奨されます。
トリンテリックスの副作用・リスクについて
ここからはトリンテリックスの副作用やリスクについて解説していきます。
- 消化器系の副作用|悪心・下痢など
- 神経系への副作用|めまい・睡眠障害など
- メンタル的な副作用|気分がハイになる・自殺企図行動など
- その他の副作用|血栓・血圧変化など
- 補足:重大な副作用(セロトニン症候群)について
うつ病の改善に効果的なトリンテリックスですが、効果が高い分だけ注意すべき点もあります。
消化器系の副作用|悪心・下痢など
トリンテリックスの副作用でもっとも多く報告されているのは消化器系の不調です。
特に悪心(吐き気)や嘔吐、下痢や便秘といった副作用が目立っています。なお、こうした症状が出るのは服用開始してから最初の1〜2週間が多いとされています。
大半の場合は身体が慣れていくにつれて症状が緩和されますが、症状が長引く方は医師に相談をしましょう。
神経系への副作用|めまい・睡眠障害など
トリンテリックスに含まれる有効成分は、脳内の神経伝達分野に影響を与えます。
そのため、神経系を原因とする以下のような副作用が生じるケースもあります。
- めまい
- 睡眠障害(不眠や過度な眠気など)
- 頭痛
基本的にこうした副作用は一時的なもので、長期間にわたって長引くことはありません。
メンタル的な副作用|気分がハイになる・自殺企図行動など
トリンテリックスに限らず、抗うつ薬を服用すると「賦活症候群(アクチベーション シンドローム)」という副作用が現れることがあります。
その他の副作用|血栓・血圧変化など
トリンテリックスの副作用には血栓や血圧変化などのリスクも挙げられます。
特に心血管疾患を抱える患者の場合は危険性が増すため注意が必要です。(心筋梗塞や脳卒中のリスク増加)
補足:重大な副作用(セロトニン症候群)について
トリンテリックスの添付文書には重大な副作用として「セロトニン症候群」が記載されています。
セロトニン症候群(頻度不明):不安、焦燥、興奮、錯乱、発汗、下痢、発熱、高血圧、固縮、頻脈、ミオクローヌス、自律神経不安定等があらわれることがあるので、異常が認められた場合には投与を中止し、体冷却、水分補給等の全身管理とともに適切な処置を行うこと(セロトニン作用薬との併用時には、特に注意すること)
セロトニン症候群は他のセロトニン作用薬とトリンテリックスを併用することで発症しやすい副作用です。
そこで、次にトリンテリックスを服用する上で知っておきたい「併用に注意が必要な薬」を解説していきます。
トリンテリックスと他の薬を併用する場合の注意点やリスク
ここでは、トリンテリックスの製造・販売をおこなっている武田薬品工業HPを参考にして併用禁忌となっている他の薬を見ていきます。
併用が禁じられているのは「MAO阻害剤」として扱われる「セレギリン塩酸塩(エフピー)」「ラサギリンメシル酸塩(アジレクト)」「サフィナミドメシル酸塩(エクフィナ)」です。
これらの薬とトリンテリックスを一緒に飲むとセロトニン症候群を引き起こすリスクが増すため、併用しないように注意しましょう。
セロトニン症候群のリスク
トリンテリックスはセロトニンに作用するため、他のセロトニン作用薬(SSRI、SNRI、MAO阻害薬など)と併用すると、セロトニン症候群を引き起こすリスクがあります。
セロトニン症候群は、混乱、発熱、震え、発汗、重篤な場合には昏睡状態に至る可能性があります。特に、セロトニン作用薬との併用は、慎重にモニタリングする必要があり、症状が出た場合はすぐに医師に連絡することが重要です。
抗凝固薬との併用による出血リスク
トリンテリックスは、血液の凝固を抑制する効果があるため、抗凝固薬(ワルファリン、アスピリンなど)を併用すると出血のリスクが高まります。
特に高齢者や心血管リスクがある患者は、内出血や消化管出血のリスクが増加するため、併用時には定期的な血液検査とモニタリングが推奨されます。
軽い出血から深刻な出血まで、症状を見逃さず医師に相談することが重要です。
代謝酵素に作用する薬との相互作用
トリンテリックスは、肝臓でCYP2D6という酵素によって代謝されるため、この酵素に作用する薬(フルオキセチン、リファンピシンなど)との併用で、トリンテリックスの効果や副作用が変化する可能性があります。
CYP2D6を阻害する薬はトリンテリックスの血中濃度を高め、副作用を強める可能性がある一方で、酵素を促進する薬は効果を弱めることがあります。
医師や薬剤師に現在服用している薬を正確に伝え、相互作用によるリスクを最小限に抑えるために、定期的なモニタリングが欠かせません。
ハイリスク薬であるトリンテリックスの服用に注意が必要な人
ここからは、ハイリスク薬に指定されているトリンテリックスを服用するのに注意が必要な人について説明していきます。
- 心血管疾患を抱える患者
- 妊娠中・授乳中の患者
- 肝機能や腎機能に問題がある患者
自身の体質や病歴等と合わせて確認してみてください。
心血管疾患を抱える患者
トリンテリックスは血栓・血圧の変化などを引き起こす可能性がある薬です。そのため、心血管疾患を抱える人は医師と相談した上で服用しましょう。
なお、心筋梗塞や脳卒中などの既往歴がある場合、血液凝固のプロセスに影響を与えるリスクがあるので「定期的な血液検査」が推奨されます。
妊娠中・授乳中の患者
妊娠中や授乳中の女性はトリンテリックスの服用を避けた方が良いと言えるでしょう。
これは妊娠中に抗うつ薬を服用すると胎児に悪影響を与える可能性があるためです。
妊娠末期に選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)又はセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(SNRI)を投与された女性が出産した新生児において、入院期間の延長・呼吸補助・経管栄養を必要とする離脱症状と同様の症状が出産直後にあらわれたとの報告がある。
トリンテリックスを服用するメリットがリスクを上回る場合のみ、同薬の使用が推奨されています。
肝機能や腎機能に問題がある患者
肝機能や腎機能が低下している患者もトリンテリックスの服用については注意が必要となります。
肝臓や腎臓は薬物の代謝と排泄に重要な役割を果たしているため、これらの機能が低下している場合、薬の代謝が遅くなり副作用が現れる可能性が増します。
特に重度の肝障害や腎障害を抱える患者は医師の判断により服用量を調整しなければなりません。
トリンテリックスを安全に服用するために|医師による指導の重要性
ここからはトリンテリックスを安全に服用するためのポイントを解説していきます。
- 医師の指導を受けた服用
- 自己判断での中断を避ける
- 定期的なモニタリングと血液検査
- 自身の体調変化に対する意識を高める
- 定期的なメンタルヘルスチェックの実施
それぞれの内容を詳しく見ていきましょう。
医師の指導を受けた服用
トリンテリックスを安全に使用するためには、必ず医師の指導のもとで服用を開始し、適切なフォローアップを受けることが重要です。
特に初めて抗うつ薬を使用する場合や他の薬を併用している場合は、リスクを最小限に抑えるために医師の指示を厳守することが求められます。
自己判断での中断を避ける
トリンテリックスの服用を自己判断で中断すると、うつ病の症状が悪化するリスクがあります。
特に服用を突然中止すると離脱症状が現れる可能性があるため、薬の中断を希望する場合は必ず医師に相談し、徐々に投薬量を減らす計画を立てましょう。
定期的なモニタリングと血液検査
トリンテリックスを服用している期間中は定期的な診察やモニタリングを受けましょう。
特に心血管系のリスクがある患者や他の薬を併用している場合、血液検査や心電図検査を通じて健康状態を把握し、副作用のリスクを早期に発見することが推奨されます。
患者自身の体調変化に対する意識を高める
トリンテリックスを安全に使用するためには、患者自身が体調の変化に敏感であることも重要です。
服用中に気分や体調に変化を感じた場合、特に吐き気や頭痛、気分の落ち込みが続く場合は、すぐに医師に相談しましょう。
早期に副作用や体調不良を把握し対策を講じることで、より安全にトリンテリックスを使用できるようになります。
定期的なメンタルヘルスチェックの実施
トリンテリックスを使用している間は、定期的にメンタルヘルスチェックをおこなうことも推奨されています。
うつ症状の変化や自殺念慮の兆候を早期に発見するためにも、医師によるカウンセリングを定期的に受けましょう。
治療初期には家族や友人と状況を共有し、支援を受けることで安心感を得られ、より効果的な治療が可能となります。
ハイリスク薬のトリンテリックスは用法・用量を守ることが大切
トリンテリックスはうつ病の治療に効果的な薬である一方、慎重な取り扱い方が求められるハイリスク薬のひとつでもあります。
とはいえ、用法用量を守って服用すれば副作用のリスクを抑えながら正しい効果を得られますので、まずは一度医師によるカウンセリングや診察を受けてみてください。
その上で自分に合った用量を知ることがトリンテリックスを服用する際に重要なポイントです。